同窓会報No.39

岐阜工業高等専門学校 校長 伊津野 真一 選択というのはやはり難しく、選んだ学科にどうしてもなじ めないということも場合によってはあるのは当然です。高専 では専門性を重視した教育になりがちですが、もっと幅広い 教育が必要だと感じます。STEAM教育が叫ばれています が、Aの重要性を強く感じます。理系、文系の意識を強く 持つと、それぞれ一方を必要ない、または避けようとする傾 向が出るので、高専では特に気を付けたいところです。これ は技科大もそうかもしれません。高専では入学時から5 年 間同じクラスで過ごすわけですから、この変化の大きい時期 に、同じ環境を強いられている、と感じてしまうと辛いこと になります。メンタルの問題の原因の一つとなります。同年 代の高校では、大学入試を目指してひたすら突き進みます。 高専の3 年生は自分の専門性を本格化させようとする時期 で、ある意味でプロ意識が芽生えてきます。このあたりをう まく引き出すのが高専の教員の腕の見せ所でもあり、教育 者としてのとてもやりがいのある部分ではないかとみていま す。高専はあくまでも高専であって高校とも大学とも違うの ですが、高専の教員は高校と大学両方の教員としての役割 を持っています。二刀流です。結構うまくやってるなと感心 しています。 国は日本の低迷している半導体産業を支えるため、大学 ではなく高専(九州)に、新たな学科を作ろうとしていま す。徳島県には私立高専が誕生します。多くの企業が出資 しています。滋賀県では新たな高専設立の構想が進んでい ます。滋賀県は岐阜の隣なので岐阜高専としてはやめてほ しいですが。海外高専の展開も進んでいます。いま改めて 高専のユニークな教育が見直され始めているような気がし ます。 技科大は優秀な研究者が多いので十分それだけでやっ ていけるのですが、高専を最も有効利用できる立場にあると もいえるので、それをもっと生かすべきです。ユニークな高 等教育機関としての高専の特徴をよく理解していることが 高専に伝わると、豊橋技術科学大学への進学ももっと積極 的になると思われます。どうぞ高専の動向に敏感に反応して くださるようお願いします。 2021年3月末に豊橋技術科学 大学を退職し、岐阜高専に異動し ました。私は有機化学、高分子化 学が専門ですが、岐阜高専には 化学系の学科がありません。その ためこれまで岐阜高専に来たこ とは一度もありませんでした。そ れでも化学系のない岐阜高専に来て特に違和感なく過ごし ています。化学系がない分、各学科を公平に見ることがで きるかもしれません。技科大は高専生を多く受け入れていま すから私自身高専のことは大体わかっていると思い込んで いました。同窓会の皆様も高専出身の方が多いと思います ので、今更何を言っているんだと思われるかもしれません が、高専の一員となって高専の学生と触れ合うようになり改 めて高専について理解できるようになってきました。 高専本科の5年間で学生は精神的にも肉体的にも劇的に 成長します。さらに専攻科の2年間を含めると入学時と修了 時の変化は驚くばかりです。このような、いわば特殊な環境 の中で様々な刺激を受けることになります。今年から成年年 齢が引き下げられ 18 歳となると、高専生の半数が成年とな ります。いろいろな権利や義務が生じることになります。高 専ではこの問題も今後影響が大きくなるかもしれません。 低学年の学生にとっては、なんでも知っていて、なんでも できて到底能力的に遠く及ばないと思える先輩が身近にい て、いろいろなことを吸収することができます。その過程で 自分の専門性が深まり、場合によっては眠っていた専門性 がうまく引き出されていきます。一方で高学年になると、自 分のたどってきた道も踏まえて後輩に上手に教えようとしま す。しかも同じ専門を目指す仲間意識が強いので、一体感 が出てきます。一般的に高専生は非常に面倒見がいいよう に思えます。人に伝える能力は技術者にとってとても重要な ので、それが十分に養われる環境ができています。違う高 専を卒業しても、お互いに高専出身だとわかると、何も言わ なくても理解できる部分があるような気がします。豊橋技術 科学大学では入学当初から高専生が数で圧倒しているの で、あまりそのような見方はしていませんでした。 一方で欠点も見えてきます。中学生の段階で専門分野の 退職教員より 24 2022 年 第 39 号 TUT 同窓会報

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